空間反転対称性の破れた超伝導
結晶構造に空間反転対称性のない金属では縮退していたフェルミ面がスピン分裂します(研究内容:パリティの破れに起因したフェルミ面のスピンテクスチャー参照)。
超伝導はフェルミ面上の電子でペア(電子対)を形成することから、このような金属における超伝導では、従来のBCS超伝導で知られた「シングレット・s波」とは異なる電子対を形成することになります。そのため、従来型とは異なる超伝導の性質が現れます。
我々の研究室ではこれまでCeRhSi
3という反転対称性のない重い電子系物質で非常に大きな上部臨界磁場
Hc2をもつ、いわゆる強磁場超伝導を発見しました。
一般的に超伝導の上部臨界磁場Hc2はゼーマン効果と軌道効果の2つの対破壊効果によって決まり、それぞれの効果で規定される最大磁場をパウリ・リミット(
HP)、オービタル・リミット(
Horb)と呼んでいます。
Hc2は両リミットを越えることはできません。
通常1 K程度転移温度(
Tc)を持つ超伝導は最大でも2T程度の磁場で超伝導は破壊されてしまいます。
CeRhSi
3は
Tcが1.1 K程度にもかかわらず
Hc2が30Tに達するほど高い値を示します。
これは、空間反転対称性の破れによって生じた反対称スピン軌道相互作用によって、超伝導電子対のスピンの向きが運動量方向にロックされ、パウリ・リミットが極端に大きくなったことと、伝導電子の強い相関によってオービタル・リミットが増強されたためと解釈されています。
このような異常に高い
Hc2は他の重い電子系超伝導でも見られないきわめて特異な性質です。
特に、
Hc2/
Tcの高さは、他の超伝導物質と比較しても突出しています。
図1.CeRhSi3の結晶構造と超伝導上部臨界磁場Hc2の温度依存性(超伝導相図)。
図2.強磁場超伝導の発見年。