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研究内容

希土類磁性体の量子現象

 セリウムやネオジムなどに代表される希土類元素の f 電子は、結晶中における軌道角運動量の異方的分布を反映した強い磁気異方性を発現します。 この強い磁気異方性と、三角格子やカゴメ構造などの幾何学的フラストレーションをもつ結晶構造を組み合わせると、 磁気異方性の弱い鉄などの d 電子系では現れない奇妙な性質が現れます。
 例えば、CeZn3P3という化合物の内部では、 少し歪んだ三角格子上に平面的な(XY的な)磁気容易性をもつセリウムの磁気モーメントが配置されています。 この物質はTN=0.8Kで反強磁性状態となります。通常なら反強磁性体に磁場を印加すると常磁性状態に転移します。 我々は、このCeZn3P3に対し、磁場をa*軸方向に印加することで反強磁性状態でも常磁性状態でもない状態(量子無秩序状態)が出現することを発見しました。この量子無秩序状態は少なくとも 0.1K まで持続することが分かっています。一方、磁場をa軸方向に印加した場合は量子無秩序状態は出現しません。これは明らかにセリウムの磁気モーメントの強い異方性と関係した現象であると期待されます。 この量子無秩序状態が、単に秩序のないスピングラスのような状態であるのか、それとも量子スピン液体の様にコヒーレンスを保った状態であるのかを解明するため、研究を続けています。



図1.(a) CeZn3P3の結晶構造。 (b) CeZn3P3の単結晶。 (c) 温度 0.05 – 1 K の範囲の比熱 C を温度で割った物理量 C/T の温度依存性。 III相に相当する 6.5 T と 7 T のC/Tが絶対零度に向かって増大していることが分かる。 (d) 温度 0.25 K における CeZn3P3の状態図。 クローバーの葉のような構造を作るI相とII相が反強磁性相に相当する。六角形の外側の白い部分のPara相は常磁性相を表す。 これらの間にある赤色のIII相が我々の発見した量子無秩序相である。 この相図は角度を少しずつ変えて磁気熱量効果を測定する事によって得られた。 A. Ochiai, N. Kabeya. et al; Phys. Rev. B 104, 144420 (2021)